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織りと染めの町

郡上八幡にいきづく伝統の工芸の数々。それは名水と清流が育んだ文化ともいえます。430年の歴史をもつ郡上本染。そして人間国宝を生み出した郡上紬。ともに豊かな自然ときれいな水と城下町の歴史そして郡上びとの心で染めあげられる、織りあげられる日本の伝統美です。

 

郡上紬(つむぎ)

大滝鍾乳洞

郡上の農家では、昔から「地織り」(くず繭をためてつむいで手機でつくった自家用紬)が盛んに織られていました。一説には、平家の落人が野蚕繭をつむぎ、草や木を煎じて染めたのが前身だとも言われていますが、その伝統も明治以降に衰退してしまいました。戦後
、地域に根ざした技術の振興を理想とする宗広力三氏によってこの「地織り」が復興され、さらに研究を重ねて創り上げられたのが郡上紬です。

郡上紬の特徴として第一にあげられるのは、その着心地の良さです。
着心地が良いということは紬にとって大切なことですが、郡上紬はその暖かさと柔らかさ。そして肌ざわりのよさで申し分のない織物といえます。

そして第二には多様な柄の美しさが上げられます。たてよこの色糸の組み合わせで縞や格子を織り出す「縞織り」、あらかじめくくって染めた糸で絣模様を出していく「絣織り」、郡上紬は縞や格子に、さらに絣を組み合わせ、曲線模様、独特のぼかし模様など独自の複雑な表現を生み出しました。

 

郡上紬の織り方と制作過程

1、糸をつむぐ

めいほうスキー場

まず、短い繊維をより合わせ、つむいでいって紬糸をつくります。素材は、春繭からとった本真綿で紡いだ紬糸を使います。繭をほぐして短糸状にし、だ液をつけ撚りをかけながらつむいでいきます。だ液には、糸を湿らしてつまみやすくする上に、タンパク分解酵素のペプシンで繭糸の膠質を柔らかくする効果があります。

2、染め

めいほうスキー場

つむいだ糸を灰汁などで精練して油などの不純物をとりのぞきます。この精練が不十分だと染料がうまくつきません。精練後、植物染料で染めます。郡上紬はすべて天然の草木染めです。茜、苅安、阿仙、藍などを使い、何十回もくり返し、くり返し染めていきます。 黄は刈安、黒は阿仙薬(カチキュー)、紺や青は藍などこの地方に産する天然の植物を使い、「茜百回、藍百回」といわれるほど数を重ねて染め上げる手法がとられています。また宗広力三氏があみ出した「どぼんこ染め」に代表される独自の染め手法があり、コクのある堅牢でかつ微妙な色の仕上がりになっています。

3、織り

めいほうスキー場

糸を織り機にかけます。たて糸をハタにかけてひっぱり、よこ糸を一本一本打って織っていくのですが、このときのいわゆる「間」が、繭の繊細なバルキー性をいかに生かし、着やすくするかを決める大切なポイントのようです。 郡上紬独特の縞織りと絣織りを繰り返して織り上げます。

経糸には、節糸の玉繭が使用されています。これは郡上紬独特のもので、織りにくさという難点にもかかわらず、織り上がりの点を評価して、特に採用されています。また、緯糸には春繭からとった本真綿の手紡ぎ糸が使われます。高機(たかはた)で織るのも特徴です。

宗広氏は「泣いて染めても笑って織れ」と教えられました。染めは地味で辛い作業でも、織る時は織り子自身が楽しみ, 心を躍らせながら織らないと美しい仕上がりにならないということだそうです。

のちに人間国宝の指定を受けることになる宗広力三氏は「本物の糸を使い、本当の草木染めを行って、本当の織りを目指す」という信念をつらぬき、春蚕しか使わないという糸へのこだわりから、平織で独創的な柄を作りながら、あくまでも紬の素朴で温かい土の香りにこだわり、一切手抜きをしない紬として広く知られる存在になりました。

また大量生産の道へはけして踏み入れてはならない、という宗広氏の理念は、白州次郎氏の令夫人正子さんの審美眼にとまって郡上紬が広く世に紹介されてからも固く守られ、この郡上紬は愛好家のあいだで「幻の紬」とされています。

郡上紬の工房は非公開になっています。これは織り子さんたちの作業の集中とプライバシーを第一義とするためで、皆様のご理解をおねがいいたします。なお人間国宝の宗広力三氏の手による郡上紬の代表作とされるものは郡上八幡博覧館、郡上紬特約店たにざわにてご覧いただくことができます。

めいほうスキー場

 

郡上本染(ほんぞめ)

せせらぎ街道

郡上本染を継承する渡辺家は、天正年間(1570~80)の創業であり、430年にわたって野生の草木を使って藍染めをする農家の手甲、脚胖、野良着などを染めてきました。郡上八幡の古い家並みに続く立町の紺屋「渡辺染物店」で当主渡辺庄吉氏は14代「菱屋安平」の家名を襲名。全国でも珍しい正藍の伝統と技術を守り続ける職人として知られています。

暖簾をくぐると天保時代から土間に埋められた藍瓶が、江戸時代そのままの薄暗い雰囲気のなかに並び、14代目渡辺庄吉氏の「藍は生きもの。そして日本人の心の色。」の言葉が伝わってきます。

この紺屋の光景はかつて日本のどこでも存在していましたが、明治の末期以降人工染料に押されて衰退の一途をたどり、現在では継承者もわずかになり伝統工芸の域になってしまいました。 現在建物を含めて工程のすべてが岐阜県重要無形文化財の指定をうけています。

 

郡上本染の工程

さくら道 国道156号線

タデ科の藍の葉を乾燥させ、水をかけて発酵させて蒅(すくも)を作り、杵で搗いて四角にしたのが藍玉です。現在は藍の主要産地である徳島県から仕入れています。最初に楢の木を燃やして出来た木灰に、熱湯を加え灰汁を作ります。

藍甕(あいがめ)に灰汁を入れたところへこの蒅(すくも)を練って溶かし込み、消石灰と少量の酒を加え、他の甕の藍液を入れてよく混ぜます。二~三週間根気よくこの作業を続けると発酵が進み、藍甕の真ん中に藍の華ができます。発酵の度合いは季節と天候によって異なるので、灰汁の強さを加減しながら藍の発酵を調整して、良好な状態に保つよう管理されます。

渡辺氏が白生地をこの藍甕の中に漬けると染め上がる色は藍色ではなく、茶色とも緑色ともつかぬ色合いですが、それを玄関前の用水の流れにさらすと、まるで手品のように鮮明な藍色に変化します。渡辺染物店の前を流れる用水の水源は乙姫滝の天然湧水で水の町郡上八幡でも屈指の名水です。この恵みをうけてよい藍色が出せる、と渡辺氏は語ります。

筒描(つつがき)の工法

布を染料に浸す前に「もちのり」を丁寧に絵にそって布地につけてゆきます。こうすることで「もちのり」をのせた部分が白く残ります。この作業をくりかえすことよって絵柄がうまれ代表作品のひとつである郡上本染のこいのぼりが出来上がります。毎年1月の大寒の日に吉田川でおこなわれ、多くの写真家や愛好家が見学に訪れる「寒ざらし」は本来この「もちのり」を清流で洗い落とす作業なのです。

岐阜県重要無形文化財の渡辺庄吉氏の手による郡上本染めの作品は 渡辺染物店、郡上八幡博覧館、郡上八幡旧庁舎記念館でご覧、購入いただけます。また工房の一部は非公開になっています。皆様のご理解とご協力をおねがいいたします。

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